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肝機能異常を
指摘された方へ
特に自覚症状がなくても、健康診断・人間ドックで肝機能の異常を指摘された場合は注意が必要です。
肝臓の数値が上昇する原因には、感染症、飲酒、薬物などによる一時的な上昇のほか、気づかないうちに徐々に進行する持続性の肝臓疾患があります。原因は様々ですが、症状が出始めてからでは手遅れになることもあります。身体に異変はないからと自己判断で放置せず、まずは肝臓専門医である当院までご相談ください。
ASTとALT
AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)とALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)は、どちらもアミノ酸を生成するトランスアミナーゼという酵素です。
AST(別称GOT)は肝臓以外の筋肉や赤血球にも存在しますが、ALT(別称GPT)はほぼ肝臓にしか存在しません。
どちらも肝臓や筋肉が障害を受けると血中に放出され、血液検査の数値が上昇しますが、損傷部位を特定する重要な手がかりとなります。
例えば、ALTのみ(または両者)の上昇は肝障害の可能性があり、逆にASTのみの上昇は心筋梗塞や筋肉の異常、溶血性貧血などが考えられます。
また、ALTはASTの3~4倍長く血中にとどまるため、急性肝炎ではASTが多く、慢性肝炎や肝硬変、肝がんなどでは逆にALTが多くなります。
ガンマ-GTP (γ-GTP)
ガンマ-GTP(γ-GTP)とはガンマグルタミルトランスペプチダーゼのことで、タンパク質を分解するアミノ酸の一種です。アルコールなどの毒素を分解するのに使われます。
通常は胆嚢で生成され、肝臓で働き、役目を終えると十二指腸から排出されますが、いずれかに異常があると、十二指腸からうまく排出されずに逆流して血液中に排出されてしまいます。
そのため、この数値が高いとアルコール性肝障害や、胆嚢の異常、胆管結石など胆嚢周辺の異常も考えられます。
また、近年注目されている肥満などのメタボリックシンドローム関連が原因と考えられる非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)や非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)を発見する手がかりにもなります。
ALP
ALPはアルカリホスファターゼの略で、肝臓の他、腎臓、腸壁、骨にも存在する酵素の一種です。リン酸化合物を分解する役割を担っています。肝臓で働いた後、体内の様々な場所で作られたALPは、最終的に胆汁と混ざって排出されます。
この胆汁の流路にがんや胆道結石などの異常が起きて胆汁が停滞すると、逆流して血中のALP値が高くなります。
そのため、ALP値は肝機能障害や胆嚢周囲の異常、骨の異常などを知る重要な指標となります。ALPは幅広い部位で作られる酵素のため、この数値に異常が見られた場合は、どの部位に異常があるのかをしっかりと調べる必要があります。
総ビリルビン
ビリルビンは、赤血球が役目を終えて分解される際に生成される黄色の色素です。肝臓に運ばれた後、胆汁として体外に排出されます。肝臓に入る前と後のビリルビンを合わせて総ビリルビンと呼びます。
仕組みとして、1つは肝機能の低下により胆汁に排出されずに血中に放出されるため血中濃度が高くなること、もう1つは胆管などの異常により逆流が起こり、血中濃度が高くなることがあります。
したがって、総ビリルビン値は、肝炎、肝硬変、肝がんなどの肝機能障害や、胆嚢や胆管などの胆汁経路に何らかの異常がある可能性を示しています。
このように、血液中の物質は複雑に絡み合って臓器の異常を示します。自覚症状がなくても必ずご相談ください。
肝機能異常を
指摘される病気
- ウイルス性肝炎
- 非アルコール性肝障害
- 脂肪肝
- アルコール性肝障害
- 自己免疫性肝疾患(AIH、PBC、PSC)
- 薬剤性肝障害(処方中の薬剤やサプリなど)
- 体質性黄疸(Gilbert症候群など)
- 肝硬変
- 肝腫瘍
- 胆石症
- 感染症
- 甲状腺機能異常
- 心不全
- ショック、
循環不全 - 低栄養
ウイルス性肝炎
ウイルス感染によって肝臓に炎症が起こり、肝機能異常が起こる疾患です。急性感染では発熱、黄疸、全身倦怠感などがみられますが、慢性感染(持続感染)では無症状のことが多く、検診などで偶然に、または肝硬変になって発見されることも多いです。
原因となるウイルスには、A型やE型肝炎ウイルス、EBウイルス、サイトメガロウイルスなどがあり、感染経路はウイルスの種類によって異なります。日本人に多いのはC型やB型肝炎ウイルスによる慢性肝炎で、進行すると肝硬変や肝がんなどの重篤な状態にもなりえます。近年、C型・B型肝炎ウイルスともに有効な治療薬が開発されており、早期の検査と適切な治療で改善が可能です。
非アルコール性
脂肪性肝疾患
肝機能は主に肝細胞が司っており、肝細胞は肝臓の80%以上を占めます。栄養の偏りや過度の飲酒があると、肝細胞内で栄養がうまく代謝されず、細胞内に余分な脂肪分が蓄積した状態(脂肪肝)になります。
近年、生活習慣などにより発症する脂肪肝が増加しており、飲酒しない人でも発症するため、非アルコール性脂肪肝(NAFLD)と呼ばれます。
NAFLDのほとんどの症例は肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧と関連しています。適切に治療しないと10年以内に肝硬変に進行し、肝臓がんに繋がります。日本人を含むアジア人は欧米人に比べて肥満に弱く、体重や内臓脂肪が少しでも増加すると糖尿病などの生活習慣病にかかりやすくなります。NAFLDはほとんど無症状ですが、肝硬変に至ると肝臓を元の状態に戻すことが困難になります。進行を防ぐには、適切な治療を継続することが重要です。
アルコール性肝障害
過度の飲酒が続くことによるアルコール性肝障害は、様々な病態が同時に進行、重篤化させます。重症型アルコール性肝炎は致死率が高く、飲酒を止めても手遅れになります。
肝臓の代謝能力には個人差が大きく、女性やALDH2活性欠損者(飲酒で顔が赤くなる人)、肥満者などは、目安となる摂取量に満たなくても発症しうるため、要注意です。
治療の基本は禁酒と食事療法です。アルコールが体内から代謝されるには、飲酒後24時間程度かかるといわれているので、肝臓を休ませるために週に数日は飲酒を控えること、1日の適正な飲酒量を守ること、バランスの良い食事を心がけることが大切です。
また、規則正しい生活習慣を維持し、飲酒以外のストレス解消法を見つけることも有効です。心理的な問題などで断酒が難しい場合は、飲酒欲求を抑える薬物療法もあります。
自己免疫性肝炎
自己免疫性肝炎は、免疫系の異常によって引き起こされる肝疾患ですが、詳細な原因は未だ不明です。慢性肝細胞障害であることが多く、ASTやALTの高値が慢性肝炎の病態として持続します。放置すると急速に進行し、肝硬変や肝不全に至ることもあります。50〜60歳代の女性に多いですが、若い女性や小児、近年では男性患者や高年齢層の症例も増えています。肝炎ウイルス、アルコール、薬剤性肝障害、他の自己免疫疾患による肝障害が原因として除外され、血液検査で自己抗体(抗核抗体、抗平滑筋抗体)陽性または免疫グロブリン(IgG)値上昇が認められた場合に、本症の疑いが強くなります。自己免疫性肝炎には病状や体格に合わせた治療が必要であり、熟練した肝臓専門医による継続的な管理が、治療効果と安全性を向上させます。
原発性胆汁性胆管炎
原発性胆汁性胆管炎は、胆汁を排出する肝臓の小胆管が障害され、肝臓内に胆汁うっ滞が生じる疾患です。中高年の女性に多くみられ、初期は無症状やかゆみなどの軽い症状のみの場合が多いです。免疫異常が関与しているため、慢性甲状腺炎、シェーグレン症候群、関節リウマチなど他の自己免疫疾患や膠原病も合併することがあります。自己抗体の一つである抗ミトコンドリア抗体(AMA)の陽性率が特異的に高いことから、肝疾患以外の疾患の評価も重要です。治療の第一選択はウルソデオキシコール酸です。ステロイドと異なり、ウルソデオキシコール酸は副作用が少なく、約90%の症例に有効です。そのため疾患の初期に投与されることが多いですが、進行期に投与しても効果がありません。早期から適切な治療を行うためには、肝生検を含めた肝臓専門医による診断管理が重要です。
肝硬変
肝硬変は、炎症によって肝細胞が線維と呼ばれる組織に置き換わり、肝臓が硬く、弱くなる慢性で長期にわたる肝障害です。ウイルス性肝炎、アルコール性肝炎、自己免疫性肝疾患、非アルコール性脂肪性肝炎など、どのような原因でも起こる可能性があり、放置すると肝硬変に至ります。
食欲不振や倦怠感などの初期症状があり、重症化すると黄疸、腹水、吐血、意識障害などを引き起こします。血液検査や腹部CT検査、超音波検査などの画像検査で診断できます。一度肝硬変になると、内科的治療では正常な肝臓を取り戻すことはできず、肝移植が唯一の根治的治療となります。肝移植は侵襲が大きく、年齢制限やドナー(肝臓提供者)の確保などの障壁もあるため、肝硬変にならない様できるだけ早期に進行を防ぐ必要があります。
肝臓の腫瘍
(肝細胞がん)
肝臓のがんには、肝臓に発生する原発性肝がんと、他の臓器のがんが肝臓に転移した転移性肝がんがあります。日本人で5番目に多い肝細胞がんが、原発性肝がんの90%を占めます。また、がんでない肝臓の良性腫瘍は、肝細胞がんとの鑑別が難しく、超音波検査、CT検査、MRI検査などで慎重に診断する必要があります。
B型肝炎やC型肝炎などのウイルス性肝炎は肝細胞がんが発生しやすく、無症状でも定期的な検査が必要です。糖尿病や肥満に伴うアルコール性肝疾患や非アルコール性脂肪性肝炎から発生する肝細胞がんも最近増加しています。